近年、ヒト全遺伝子の約90%以上の遺伝子が、選択的スプライシングにより調節されていることが報告され、選択的スプライシング異常と発がんや神経疾患の関連性が注目されている。本研究では、選択的スプライシング因子Tra2 betaの機能解析を行い、消化管細胞において酸化ストレスにより発現が誘導される、Tra2 betaタンパク質の新規機能及び、PTC(中途終止コドン)をコードするTra2 beta-4 RNAバリアントの生理学的役割を解明することを目的とした。 平成23年度の研究において、 1.Tra2 beta遺伝子のプロモーター解析及びクロマチン免疫沈降により、酸化ストレス応答により転写調節を受ける領域と転写因子HSF1の関与、またオンコプロテインのひとつであるEts1がTra2 betaの基本転写に必須であることを見出した。 2.ヒト大腸上皮細胞及び大腸がん組織の免疫化学染色により、大腸がん組織にTra2betaタンパク質が高発現すること、HSF1とEts1と共局在することを見出した。 3.Tra2 beta-1 mRNAの発現阻害した大腸癌細胞株HCT116細胞では、細胞増殖の低下と、アポトーシスの誘導が観察され、Tra2 betaは、抗アポトーシス因子である可能性が新たに示唆された。 4.PTCバリアントであるTra2 beta-4 RNAは、タンパク質に翻訳されず、大腸がん細胞株 HCT116に高発現しており、ビオチン化したTra2 beta-4を用いて、直接相互作用する可能性のあるRNA結合タンパク質を3種類同定出来た。 以上のことから、Tra2 beta遺伝子の発現調節機構及びTra2 betaタンパク質の新しい細胞内機能を見出し、Tra2 beta-4 mRNAが大腸がん細胞株において機能性RNA分子として作用する可能性があるという重要な知見を得ることが出来た。
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