平成23年度は、desmoplasia増生の原因と考えれる膵星細胞に注目し、膵癌患者より得られた手術切除標本を用いて樹立したヒト膵星細胞株に対して、desmoplasiaを制御することが期待される薬剤Aを投与したところ、すべての膵星細胞細胞株にて増殖、遊走能、浸潤能が抑制されることを確認した。また、薬剤Aの投与により、膵星細胞において、膵癌の癌間質相互作用に大きな役割を果たす、TGF-β1、PDGFなどの増殖因子と、間質器質であるコラーゲンIおよびフィブロネクチンがたんぱく質レベルおよびRNA発現レベルで抑制されることを確認した。このことにより、薬剤Aにより膵星細胞およびその癌間質相互作用が抑制され、最終的にdesmoplasiaが抑制されうる可能性が示唆された。それをin vivoにおいても確認するため、膵癌細胞株とヒト膵星細胞をヌードマウスへ共移植し、薬剤Aを投与したところ、膵星細胞を共移植した場合のみ薬剤Aにて腫瘍形成が抑制され、組織レベルでもdesmoplasia形成が抑制されていることを確認した。膵癌細胞株のみを移植した場合には薬剤Aの効果は認められず、薬剤Aが膵星細胞を特異的に抑制し、抗腫瘍効果を示すことが推察された。また、現在膵癌治療において使用されるジェムザールと薬剤Aの併用投与をin vivoにて行ったところ、ジェムザール単独群と比較して、著名な腫瘍増大抑制効果を認めた。薬剤Aが膵癌の間質細胞である膵星細胞を、ジェムザールが膵癌細胞を治療ターゲットとし、間質と癌細胞の両方を抑制することが、著名な腫瘍抑制効果につながったものと考えられた。薬剤Aが膵癌のdesmoplesiaを標的とする新たな膵癌治療薬剤となりうる可能性が示された。
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