マウスES細胞を用いたインスリン産生細胞への分化実験を行い、インスリン産生細胞数の増加を促す低分子化合物のスクリーニングを行った。ハイスループットかつ化合物の効果をより明確にするためフィーダー細胞を用いず合成に材を敷いた96穴細胞養プレートを使用し、無血清条件で培養した。化合物添加の効果の評価は抗GFPおよび抗Insulin抗体による免疫二重染色によって行った。 その結果、1300個の既知の低分子化合物をスクリーニングし、10のヒット化合物を同定している。これらの10の全てが濃度依存的に効果を示しマウスES細胞分化における最適濃度を明らかにした。また、これらの化合物の作用機序は既に報告があり、標的分子が明らかになっている。そこで標的分子に同様に作用するような類似作用を持つ化合物の効果についても検討したところ、さらに29個のヒット化合物を得た。これらの化合物のなかから異なる作用をもつ化合物を組み合わせて添加する実験を行った。その結果、相乗効果をもたらす場合や効果が変わらない場合があった。すなわち、複数の化合物が異なる生体内の経路や同一の経路の上流・下流に影響することでインスリン産生細胞への分化が促進していることが推察された。これらの化合物の組み合わせ添加によってインスリン産生細胞を増加させるだけでなく成熟化、すなわちグルコース濃度に応答したインスリン分泌能を有する細胞を分化させることができた。本研究において確立した低分子化合物を用いたマウスES細胞の分化手法によりIn vitroで成熟化β細胞を誘導し、糖尿病モデルマウスへ移植することでの治療効果があるかどうかについて検討を進めている。これらの試みは将来的なES細胞またはiPS細胞を用いた糖尿病治療に貢献できると考えている。
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