研究概要 |
我々はこれまでに,p21発現抑制miRNA/p53共発現アデノウイルスベクターを開発することで癌治療効果を増強することに成功している.そこで,更に別の標的遺伝子のひとつであるMDM2を特異的に発現抑制する人工miRNAの設計を行い,発現プラスミドベクターのトランスフェクションによりMDM2の蛋白発現誘導の抑制を確認した.次に,このプラスミドベクターを元に相同組み換えを用いてMDM2発現抑制アデノウイルスベクターを作成した. このアデノウイルスを大腸癌細胞であるDLD1,肝癌細胞であるHLFおよびHep3Bに対してp21発現抑制miRNA/p53共発現アデノウイルスベクターと共に感染させ,48時間後にフローサイトメトリーを用いてアポトーシスの指標となるsubG1の割合を定量的に測定した.その結果,DLD1とHep3Bでは,MDM2発現抑制ベクターによりsubG1の増加を認め,アポトーシスが増強していると考えられた.また,Hep3B細胞においては,MDM2とp21の発現を両方抑制した時に,よりアポトーシスが増強されたことから,p53の発現に2種類の標的遺伝子の発現抑制が相乗効果を引き起こすと考えられる.大腸癌細胞SW480にアドリアマイシンと共に,これらのアデノウイルスを感染させたところ,p53発現とp21/MDM2の両方の抑制を行った細胞で最も強くアポトーシスが観察された.このことから,抗癌剤の併用時にも両者の抑制は有効であると考えられた.今後,ヌードマウスを用いた治療モデルを用いてその効果を確認する予定である.
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