研究概要 |
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は食生活の欧米化により増加し,日本でも約3%の国民が罹患していることが想定されている.将来的に肝硬変,肝細胞癌へと進行しうるNASHであるが,その病態は未解明であり,また診断法も確立されていない.我々は今までNASHの診断や進行度の判定に対し有用なバイオマーカーを見出し報告してきた。またNASH患者の肝組織の遺伝子発現をマイクロアレイ解析を用いて検討し,NASH病態の中心的役割をインスリン様成長因子(insulin-like growth factors : IGF),及びIGF結合蛋白(IGF binding protein)が担っている可能性を発見した.今年度は横浜市立大学で肝生検を施行し組織学的検討を行った120例の脂肪肝患者の血清を用いIGF-1,IGFBP-1および血糖関連,コレステロール関連,またNASHに関連する因子として高感度CRPの測定を行い比較検討を行った.肝臓の中の脂肪化と相関する因子としてALT上昇,IGF-1低下,IGFBP-1低下が相関していた.またIGF-1は高感度CRPと逆相関を示しており,IGF-1,IGFBP-1の低下はNASHの病態,進展に関与する可能性が高いことが示された(論文作成中).またIGF-1,IGFBP-1は糖尿病と深くかかわる因子ではあるが,NASHの発症においては糖尿病よりも,糖尿病の前段階である耐糖能異常状態によるインスリン過剰分泌状態が重要であることを見出し英語論文で発表を行った(Journal of Diabetes Investigation in press).またNASHの発症には生活習慣や運動不足などの後天的な因子と同様に,遺伝的な先天的因子が重要であることが知られている.NASHの進展と関与する因子をSNP解析し,糖尿病や高脂血症と関わる一塩基多型(single nucleotide polymorphism : SNP)であるpatatin-like phospholipase 3 gene (PNPLA3)を発見し英文誌に報告した(BMC med genet. 2010 ; 11 : 172).今後さらなる詳細な検討を行い,本邦において増加が見込まれるNASHの早期発見,病態解明を目指す.
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