SALL4は脊椎動物に広く保存されたジンクフィンガー蛋白質で、ES細胞に発現し、増殖と分化決定を担い、初期発生に必須の分子であることが知られている。最近、我々はSall4がマウス肝幹・前駆細胞に発現し、肝細胞への分化を抑制する一方で胆管細胞への分化を促進し、肝幹・前駆細胞の二方向性分化決定に重要な役割を担う可能性を報告してきた。過去に末梢血球細胞に比較し造血幹細胞で強いSALL4の発現を認め、SALL4BトランスジェニックマウスではMDS様の症状を呈しAcute Myeloid leukemiaへ移行することが報告されている。このようにSALL4は様々な幹細胞に発現し、初期発生に重要な機能を担う分子である一方で、白血病細胞等で発癌との関連性が示唆されている。 そこで本研究ではヒト肝癌細胞株におけるSALL4の関与について検討を行った。SALL4はマウス肝幹・前駆細胞のみならず、ヒト肝癌細胞株にも発現が認められた。そこでshRNAシステムおよびウイルスを用いた遺伝子導入によりSALL4遺伝子をノックダウンすることで肝癌細胞株における機能解析を行った。肝癌細胞株においてSALL4遺伝子のノックダウンによりin vitro培養系で増殖が有意に抑制された。またヌードマウスへのin vivo移植実験でコントロール群に比べSALL4遺伝子をノックダウンした群で、形成された腫瘍の大きさが有意に小さかった。以上よりSALL4はヒト肝癌細胞株において増殖を制御し、腫瘍形成能に関与する可能性が示唆された。今後はSALL4遺伝子のノックダウンによる腫瘍形成能の低下を司るメカニズムとその治療応用への解析を進める予定である。
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