本研究において最新の幹細胞、細胞周期研究の知見や、各消化管疾患モデルマウスの知見を応用することにより、消化管粘膜上皮(特に胃粘膜)における有用な新規組織幹細胞マーカーとしてリンカー部スレオニンリン酸化Smad2/3蛋白(pSmad2/3L-Thr)を同定することができた。正常マウス小腸・大腸粘膜やDSS起因性大腸炎モデル、IL-10ノックアウトマウス大腸炎・大腸癌モデルといったモデルを作製し、pSmad2/3L-ThrとKi-67の蛍光二重免疫染色法にて同様に組織幹細胞を検出し、組織上皮幹細胞のマーカーとして利用できることを確認した。特にDSS起因性大腸炎モデルについては pSmad2/3L-Thr強陽性細胞を粘膜障害・再生の経過とともに経時的に確認し、粘膜障害部(活動性病変部)では pSmad2/3L-Thr強陽性幹細胞はほぼ消失しており、粘膜再生治癒状況が進行するにつれpSmad2/3L-Thr強陽性幹細胞は著明に増加していた。これは消化管粘膜には二種類(slow- or rapid- cycling)存在するとされる組織幹細胞のうち、slow-cycling stem cellの特徴に合致すると考えられた。IL-10ノックアウトマウス大腸炎・大腸癌モデルにおいてはpSmad2/3L-Thr強陽性細胞の分布を腸炎部、癌部にて観察したが、粘膜が過形成となる腸炎部ではpSmad2/3L-Thr強陽性細胞が著増していたが、癌部と思われた病変部ではpSmad2/3L-Thr強陽性細胞はほとんど発現していなかった。内視鏡的に摘出された組織標本(正常消化管粘膜組織や各消化管腫瘍組織)を利用して、同様にpSmad2/3L-Thr強陽性細胞を検出する実験を予備的に施行したところ、腫瘍部においてpSmad2/3L-Thr強陽性細胞が散在性に認められた。
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