研究概要 |
培養細胞を用いた実験と患者生検組織の解析を中心に線維化狭窄における筋線維芽細胞TRPチャネルの役割について検討を行った。 培養細胞に関して、1%FBS/SmBM培地中でTGF-β1(5ng/ml)でヒト筋線維芽細胞株InMyoFibを刺激する実験を行った。TGF-β1線維化刺激に応答する筋線維芽細胞TRPC6チャネルは、Ca2+流入を介してTGF-β1の下流のリン酸化シグナル(Smad2,MAPK,Erk1/2)に対して抑制的に働き、TGFβ1の抗炎症作用に対して抑制的である。またTRPC4、TRPC6チャネルは細胞骨格αSMAや細胞接着分子Cadherinの発現維持に関与している可能性が示唆され、線維化進行に対して促進的に働く。ラット大腸から単離した筋線維芽細胞においても同様な検討を行った。これらの現象から、消化管筋線維芽細胞による新しい炎症性腸疾患の制御機構の可能性が示唆された。 更に福岡大学臨床研究倫理委員会の許可を得て、患者の生検組織を採取して、炎症粘膜の狭窄部位と非狭窄部位の遺伝子・蛋白発現を比較検討した。現段階ではまだ十分な例数の実験データを採取できていない。 このように継続検討中の生検組織実験を含むが、ヒトやラットの単離培養細胞における実験結果からTRPC4,C6の線維化狭窄における重要な役割は強く示唆された。消化管線維芽細胞TRPCチャネルの機能解析は腸管炎症・線維化の増悪や治癒の両方向におけるシグナル伝達経路に繋がり、線維化狭窄治療に用いる新しい薬物のスクリーニングのターゲット分子の一つである。 培養細胞に関する実験データは、2012年度内に、「日本平滑筋学会総会」「西日本生理学会」「日本生理学会大会」「日本薬理学会大会」で計5つの演題として学会発表を行った。2013年7月の国際生理学会(イギリス・バーミンガム)での発表も決まっている。現在論文執筆中である。
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