本研究の目的は進行膵癌に対する化学療法において、治療前の針生検によって採取された癌組織を用いてゲノム構造異常などの網羅的分子情報解析を行い、薬剤感受性や予後など臨床的特性に関わる分子情報を解明し、個別化治療の構築を目指すことにある。平成23年3月までに89例の切除不能進行膵癌患者より超音波内視鏡下に針生検を行い、膵癌組織の凍結保存を行った。これまで本年度行った30例を含む41例に対しオリゴチップゲノムアレイ(アジレント・テクノロジーHuman Genome CGHマイクロアレイ4×44k)を用いたDNAの網羅的解析を行った。解析対象となった41例の治療法はゲムシタビン療法22例、ゲムシタビン+S-1併用療法14例、S-1療法1例、S-1併用放射線療法2例、重粒子線治療2例であった。針生検の検体であっても1μg程度のDNA抽出は可能であり、全症例でアレイCGHによるゲノム解析を施行し得た。コピー数の変化として1p、3p、9p、17p、18q、19p、20p、22qの領域にlossを、1q、19pの領域にgainを認めた。これらの変化のうち1p、3p、9p、17p、18q、19p、22qのlossは過去にも報告される染色体異常であり、生検検体を用いた本検討においても評価可能であった。また癌遺伝子であるKRASの増幅を1例で認め、癌抑制遺伝子であるSMAD familyおよびP16のlossを各々約60%の症例に認めた。本年度は3年の研究期間の初年度であるが、今後さらなる症例を集積し網羅的分子情報解析を行い、抗腫瘍効果、生存期間、有害事象などの臨床データとの関連を検討する。
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