本研究の目的は切除不能進行膵癌患者を対象として治療前に針生検によって採取した癌組織を用いてゲノム構造異常などの網羅的分子情報解析を行い、抗癌剤感受性や予後など臨床的因子に関わる分子情報を解明し、個別化治療の構築を目指すことにある。 平成24年3月までに131例の切除不能進行膵癌患者より超音波内視鏡下生検を行い、膵癌組織の凍結保存を行った。これまで本年度34例を含む75例の生検検体よりDNA抽出を行い、オリゴチップゲノムアレイ(アジレント・テクノロジーHuman Genome CGHマイクロアレイ4×44kまたは8×60k)を用いたゲノムコピー数異常の網羅的解析を施行中である。 これまでの75例の検討では微小な針生検検体であっても平均2.26μg程度のDNA抽出が可能であった。解析の精度を高めるためには、検体中の膵癌組織の含有率が問題となるが、今回われわれは生検検体のKRAS変異の有無をdirect sequence法にて検討した。この結果、変異解析を行った27検体中22検体(81.5%)にKRAS変異を認め、過去の報告と比較し遜色ない結果が示された。昨年度、癌抑制遺伝子であるp16、SMAD familyのlossを約60%に認めることを報告したが、これらの結果と併せ、生検検体であっても癌組織の分子情報評価が可能であると考えられる。 全75例の治療法はゲムシタビン療法40例、ゲムシタビン+S-1併用療法24例、S-1療法1例、S-1併用放射線療法8例、重粒子線治療2例であった。本年度は3年の研究期間の2年目であるが、今後さらなる症例を集積しゲノムコピー数異常の解析を行い、抗腫瘍効果、生存期間などの臨床データとの関連を検討する。
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