AS研究の限界は適切な疾患モデルが確立していない点である。ASの病態が弁の異常修復である可能性を考慮し、AS疾患モデルとしてマウスの大動脈弁ワイヤー傷害モデルの作成を試みた(当初バルーンでの弁傷害を予定していたが、傷害に適した径のバルーンが用意できず(バルーンがマウスには大きすぎる)、ワイヤーによる方法へ変更した)。野生型マウスを麻酔人工呼吸管理下に、頚部を正中切開し内頸動脈を露出しcut down法にて0.014inchの冠動脈形成術用ガイドワイヤーを逆行性に左室内に挿入し、数回ワイヤーにて大動脈弁を擦り付けることで弁を傷害した。この際心臓超音波にてワイヤー先端が左室内腔にあることを十分確認して行なった。術後14日において、心臓超音波にて大動脈弁の最大流速、弁口面積(連続の式にて算出)をシャム手術例と比較検討した。弁の最大流速は、シャム例1.05m/sに対し、傷害例で2.56m/sと増加しており、弁口面積もシャム例1.53mm^2に対し、傷害例で0.9mm^2と低下していることが確認された。病理組織学的に線維芽細胞の増殖と細胞外マトリックスが増加し、弁尖が肥厚していることが確認された。今後骨形成細胞の発現の有無とCa2+沈着の有無を確認している。同様の操作をApoE欠損マウスやMafBノックダウンマウスに行い弁尖肥厚の程度と石灰化の程度を検討し、ヒトAS病態に類似したマウスモデルの確立を目指す。
|