研究課題
申請者のグループが発見したDA-Raf(Deleted A-Raf)はA-Rafのスプライシングアイソフォームであり、Ras-ERKカスケードの負の調節因子である。DA-Rafノックアウト(KO)マウスは、脳や心臓、肺で発生異常を呈し、生後・ヶ月で死に至る。特に、心肥大は活性化型Rasのトランスジェニックマウスでも観察されており、DA-Rafの欠損が個体発生レベルでRas-ERKカスケードの亢進に働いている可能性を強く支持している。そこで、成体マウス心臓を解析モデルとするため、129系統への遺伝的背景の変換を行った。これによって、KOマウスの致死性は回避されたが、成体KOマウスにおいて顕著な心肥大は認められなかった。この原因として、DA-Raf KOマウスの心肥大は、肺発生の異常による肺気腫に起因する可能性が考えられた。組織学的解析から、DA-Raf KOマウスの肺胞では筋線維芽細胞が顕著に減少し、新規の肺胞壁の形成に異常があることが明らかになった。一方、DA-RafはII型肺胞上皮細胞に高発現していることから、II型肺胞上皮細胞が筋線維芽細胞の起源であると考えられた。培養II型肺胞上皮細胞は、TGF-β1の刺激により、筋線維芽細胞へと分化する。この系を用いてDA-RafをノックダウンするとTGF-β1により誘導されるRas-ERKカスケードの亢進が見られ、さらに、筋線維芽細胞への分化が顕著に抑制された。また、Ras-ERKカスケードの強力な活性化因子であるbFGFは、TGF-β1により誘導される筋線維芽細胞への分化を抑制することが明らかになった。以上のことから、DA-RafはTGF-β1の下流で活性化されるRas-ERKカスケードを抑えることによって、II型肺胞上皮細胞から筋線維芽細胞への分化を促進し、肺胞の成熟に必要不可欠な役割を果たしていることが明らかになった。
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Biochem. Biophys. Res. Commun.
巻: 418 ページ: 378-382
Int. J. Oncol.
巻: (印刷中)
doi:10.3892/ijo.2012.1390