研究概要 |
【研究目的】心肥大を中心とした心臓リモデリングの分子機構を、転写伸長反応促進因子P-TEFbを抑制性に制御する蛋白質HEXIM1を基軸としてより詳細に解析し、その病態解明ならびに、HEXIM1による新規心臓リモデリング抑制・心不全治療開発の分子基盤を構築することを目的とした。 【研究成果】 1,心筋選択的にHEXIM1野生型あるいは転写伸長反応抑制作用を消失した変異体HEXIM1dNを内因性HEXIM1の4~5倍高発現するマウスの樹立に成功した。かかるTgマウスはいずれも正常に生まれ、通常の飼育環境下においては成長速度、体重、など、コントロールのマウスとの間には明らかな違いは認められなかった。16週で屠殺後の病理組織学的検討でも異常所見はなかった。 2,野生型マウスでは正常酸素分圧下飼育により肺高血圧症を発症し右室肥大が誘導されるが、野生型HEXIM1Tgマウスでは右室肥大が誘導されなかった。 3,HEXIM1野生型あるいはHEXIM1dN発現アデノウイルスを培養心筋細胞に感染させ各種解析を行った。エンドセリン1(ET-1)による細胞肥大の誘導はHEXIM1野生型の過剰発現により抑制されたが、HEXIM1dNは影響を与えなかった。ET-1により心肥大マーカー遺伝子ANP,BNP,betaMHCのmRNA発現は増加し、HEXIM1野生型の過剰発現はそれらの変動を抑制したが、HEXIMdNは影響を与えなかった。P-TEFbの活性化指標であるRNAポリメラーゼIIのリン酸化はET-1によって誘導されたが、HEXIM1の過剰発現によって抑制された。 【研究成果の意義、重要性】 マウスにおけるHEXIM1の心筋特異的過剰発現は、低酸素誘導性肺高血圧症に伴う右心肥大の進行を抑制する可能性が示唆された。また、その分子機構の一つに、HEXIM1によるRNAPIIリン酸化抑制を伴う心筋リモデリング関連遺伝子の転写抑制が示唆された。今後HEXIM1の発現制御や相互作用分子を詳細に解析することで心筋リモデリングの分子機構をより明確に出来る可能性がある。またその成果は、各種の病態における生体に不利益な心筋リモデリングを抑制する治療法開発の分子基盤となりうる。
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