受容体活性型Ca2+チャネルであるTRPC3/6は、NFAT-calcineurin経路を活性化し、病的心筋リモデリング促進に働くことが報告されている。本研究では、心保護作用を有するナトリウム利尿ペプチド-GC-Aシグナルと、TRPC3/6-カルシニューリン-NFATシグナルとのクロストークの存在とその分子機序の解析を行った。 ラット新生仔心室筋細胞をエンドセリン-1刺激やTRPC6を過剰発現した際に見られるNFAT依存性転写活性の亢進を、ANPは抑制した。また、TRPC6を発現したHEK293細胞にて、ANPはTRPC6由来のCa2+流入と陽イオン電流を強く抑制した。これら抑制効果は、PKG阻害薬やPKGによるリン酸化部位を変異させたTRPC6変異体で消失した。ラット新生仔心室筋細胞をアンギオテンシンIIやエンドセリン-1にて刺激した際に見られる自動発火頻度の増加もANPは抑制したが、PKG阻害薬の投与にてANPによる抑制効果は消失した。以上の結果は、ナトリウム利尿ペプチドーGC-A経路が、TRPC6のリン酸化を介してNFAT依存性転写活性や細胞内Ca2+流入を抑制する事を示している。 また、GC-Aノックアウトマウスは高血圧と心肥大を示すが、その心室においてTRPC6の遺伝子発現が増加しており、TRPCの選択的阻害薬であるBTP2投与にて、血圧非依存性に心肥大の改善を認めた。さらにアンギオテンシンII投与によるマウス心肥大もBTP2投与は抑制した。 以上結果より、ナトリウム利尿ペプチド-GC-A経路とTRPC3/6-カルシニューリン-NFAT経路とのクロストークの存在が明らかとなり、さらにTRPC3/6を標的とした治療が、病的心臓リモデリングに対する新たな治療法となる可能性を示唆する結果であると考える。
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