心筋梗塞部位や皮膚潰瘍など傷害された組織の修復過程において、種々の成長因子や、ケモカインが重要な役割を果たしていることが報告されている。しかし、傷害組織において合成、分泌される成長因子やケモカインの量は修復のための必要量には十分ではない。我々は、これまでに心筋梗塞モデル動物において、ナノファイバージェル(親水性と疎水性のアミノ酸を交互に並べたオリゴペプチドであり、生理的なpHや浸透圧の環境で10nmのナノファイバーを形成する)を用いることで、インスリン様成長因子(IGF-1)や造血前駆細胞由来因子(SDF-1)を傷害組織内局所に留めることに成功し、組織の修復促進に有用であることを報告した。さらに、ヘパリン結合ドメインを備えたIGF-1の変異たんぱくを作成、精製した。この変異IGF-1は、ヘパリン結合ドメインを介し、細胞表面の負に荷電したヘパラン硫酸に結合することができる。vivoやex vivoの実験結果から、皮下組織や軟骨組織などにおいて新規変異IGF-1は、通常のIGF-1よりも長期間にわたり、投与した組織内にとどまることが証明された。またこの蛋白により誘導された細胞増殖能は単回投与後も約1週間にわたり、持続することが分かった。このように局所投与が可能となることで、IGF-1を全身投与したときに生じる癌細胞増殖などの副作用を軽減できると考える。また今後は、傷害組織への細胞移植治療を行う場合の補助療法としても有用な可能性を持ち合わせている。
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