研究概要 |
アデニル酸シクラーゼ(AC)のサブタイプのうち5型AC(AC5)は生命維持に重要な心臓、脳、腎臓に限局して発現している。本研究では「近年報告されたEpac(Exchange protein directly activated by CAMP)に着目し、AC5-Epac経路の心不全発症にはたす役割を解明し、本経路を標的にした創薬開発を目標にする。 1)AC5TG-Epac1KOを用いたin vivoの解析 AC5TG-Epac1KOのn数を十分に増やし慢性イソプロテレノール刺激心不全マウスモデル(60mg/kg/day for 7days)を作製した。コントロール群として、WT,Epac1KO,AC5TGマウスを用いて同様の実験を行った(各群N=4-6)。 (1)生理学実験:心臓超音波検査(LVEF)、心臓カテーテルによる心機能測定を行ったが、AC5TG-Epac1KOではAC5TGに比較して慢性カテコラミン刺激後の心機能低下が有意に抑制されていた。 (2)病理学実験:心肥大の程度(左室/頚骨比)TUNEL染色によりアポトーシス陽性細胞の割合、Masson染色により心筋組織線維化について検討を行った。心肥大の程度については各群有意差は見られなかったが、アポトーシス、線維化に関してはAC5TG-Epac1KOはAC5TGに比較して顕著に抑制されていた。以上の結果から本申請の仮説である「AC5-Epac経路は心筋細胞内で活性酸素を産生し心不全発症を誘導する主要な経路である」という仮説を支持する実験結果が得られた。平成24年度はどのようなメカニズムで心不全発症が抑制されたかを活性酸素シグナルを中心に検討中である。 2)AC5-Epac経路を治療標的にしたの心不全治療の可能性の検討 平成23年度中に大阪大学大学院薬学研究科(張功幸研究室)と共同でAC5に対してより選択性の高い化合物の開発を行った。AC5に対して選択的抑制効果がある候補化合物が現在までに数種類同定されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
AC5TG-Epac1KOマウスではAC5の心不全発症抑制促進作用が抑制される実験データは平成23年度中に確認された。AC5の心不全発症作用は活性酸素シグナルを賦活化して心不全発症を誘導するがその経路としてSOD(Mn,CuZn)の発現量、Raf/MEK/ERKシグナルの活性化(リン酸化)、抗アポトーシスシグナル(RSK,p-Bad,Bc1-x1,Hsp70,XIAP)が確認されているがEpacがこれらシグナルのどの部位を制御しているのか確認が取れていない。平成24年度はこれらのシグナルの解析を中心に行う予定である。
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