研究概要 |
我々は、Vascular Endothelial Cell Growth Factor(VEGF) familyであるPlacental Growth Factor(PlGF)の急性心筋梗塞での意義を解明してきた(JACC2006 ; 47 : 1559, Circ. J 2009 ; 73 : 1674)。この次段階としてPlGFと拮抗的に働くPlGF受容体であるFlt-1の可溶型アイソフォーム(sFlt-1)も同時に解析し、総合的にPlGF系の病態生理的意義を追求してきた(慢性ではPlGFはマクロファージを活性化して動脈硬化促進性に働く)。 腎不全では動脈硬化や冠動脈疾患が高率に合併することは周知の事実であるが、その分子機序は解明されておらず、PlGF系の意義は全く研究されていなかった。 [結果]腎機能低下を伴う329例の冠動脈疾患症例を対象にカテーテル検査中に血中sFLt-1、PlGF濃度を測定した。血中sFlt-1濃度は推算GFRの低下に比例して有意に低下し、PlGF/sFlt-1比はGFRと逆相関するとともに、冠動脈の重症度と比例していた。PlGF濃度は有意な変化を示さなかった。sFlt特異的PCRでの解析では76例のヒト腎生検組織中のsFlt-1mRNAも腎機能の低下に比例して低下していた。 この臨床知見をもとにApoEノックアウトマウスに5/6腎摘出腎不全モデルを作製すると、血中sFlt-1濃度と腎臓でのsFlt-1産生が減少すると同時に、大動脈硬化病変の有意な増悪が確認された。リコンビナントsFlt-1蛋白の連続4週間投与にて、マクロファージの浸潤を減少させることにより有意にレスキューすることに成功した。このことはsFlt-1が腎不全における動脈硬化発症・進展機序に少なくとも部分的には関与していること、さらにその補充により治療に応用できるという可能性を世界で初めて提唱した。
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