本研究の目的は、ヒト末梢血単球細胞と、冠動脈の不安定プラークとの関連性の検討を主目的とした。単球細胞は、炎症性と非炎症性の2つのサブセットが存在することが報告されている。また、近年プラークの評価方法として、冠動脈CTが注目されており、より強い血管の陽性リモデリングや、低CT値がプラークの脆弱性、不安定性に関与すると報告されている。以上から我々は、上記の関連性を検討するべく、安定狭心症患者を対象に、フローサイトメトリーやELISA、冠動脈CTを用いて研究を平成22年度に遂行した。研究の結果として、非炎症性単球である、CD14陽性CD16陽性単球の割合が、冠動脈CTにて評価した、冠動脈リモデリングインデックスと相関を示し、また同様に冠動脈プラークの不安定性の指標であるCT値とは逆相関を示した。それによりCD14陽性CD16陽性単球細胞が冠動脈のプラークの不安定性に関与することが示唆された、またより多くの不安定プラークを有する患者では、より高いCD14陽性CD16陽性単球の割合を示す結果を得た。現在不安定プラークの指標とされている、CRPやミエロペルオキシダーゼに関しては、本研究の対象である安定狭心症患者に関しては、不安定性の指標との関連はえられなかった。本研究の意義は、これまで同定することが困難であった、急性冠症候群に発展しうる、不安定な患者を非侵襲的に検出できる可能性が示唆されたことである。上記結果からCD14陽性CD16陽性細胞が、冠動脈プラークの不安定性への関与が考えられ、本年度は、単球や動脈硬化性病変に発現し、プラークの不安定化に関与していると考えられているToll-like受容体と単球サブセットの関連について検討を行った。対象は、急性心筋梗塞、不安定狭心症、安定狭心症患者を対象にし、発症急性期に採血を施行しその関連性を検討した。結果として、Toll-like受容体4は、急性心筋梗塞患者において強く発現し、またCD14陽性CD16陰性に比較し、CD14陽性CD16陽性細胞にて有意に発現していた。急性心筋梗塞患者においては、toll-like受容体発現率とtumor necrotic factor α(TNF-α)は相関関係をしめした。またその発現は心筋梗塞慢性期には、健常人レベル付近までに低下しており、Toll-like受容体4を介したCD14陽性CD16陽性単球細胞の急性冠症候群への関与が考えられた。以上からCD14陽性CD16陽性単球が、分安定プラークの存在や急性心筋梗塞におけるサロゲートマーカーとして利用できる可能性があること、薬剤などの効果判定にも利用できる可能性が考えられた。将来的には、治療のターゲットとして利用できる可能性を秘めており、今後の循環器領域において重要な役割を担うと考えられる。
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