計3名の肥大型心筋症患者からのiPS細胞樹立を行った。樹立したiPS細胞の免疫染色、RT-PCR、奇形腫形成等などを行い、十分な幹細胞性質を獲得している細胞株を同定し、凍結保存した後、健常人由来iPS細胞3ライン、肥大型心筋症由来iPS細胞3ラインを選別し、それぞれ大量培養系に移行した。浮遊培養によるin vitro心筋分化誘導を行い、心筋細胞への分化誘導に成功した。誘導された心筋細胞の基本的な性質を電子顕微鏡撮像や免疫染色、RT-PCR法で確認したが、両群間で特記すべき有意差は認められなかった。網羅的な遺伝子発現パターンの差異を検索するため、2群間の拍動胚葉体から心筋細胞のみを精製し、RNAを抽出してマイクロアレイ法で解析中である。また多電極細胞外電位測定法にてCaチャネル遮断薬などに対する電気生理学的反応についても検討したが、自立拍動頻度の低下や再分極時間の短縮などの変化が認められ、両群間で差は無かった。 今回樹立を行った肥大型心筋症患者はいずれも発症が青年~壮年期であり、何らかの刺激が蓄積された結果、疾患の表現型を呈しているものと予想されたため、iPS細胞由来心筋細胞に心肥大誘導を起こすことが報告されている薬剤を投与したところ、電子顕微鏡像において、肥大型心筋症患者iPS細胞由来心筋にのみ、肥大型心筋症に特徴的とされる心筋構造蛋白の錯綜配列様の所見を呈することを見出した。現在同薬剤負荷後に心筋細胞の免疫染色を施行したところ、肥大型心筋症患者iPS細胞由来心筋において優位に心筋構造蛋白の錯綜配列を呈した。複数ラインで同様の検討を行い、再現性をもって同表現型がみられることが判明した。同薬剤刺激下に同薬剤の阻害剤を用いたところ表現型の減衰が確認され、同シグナルが発症に関与している可能性が示唆された。
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