研究概要 |
我々は血管平滑筋細胞(VSMC)における(プロ)レニン受容体{(P)RR}の生理的役割を検討するためにCre-loxPシステムを用いて平滑筋細胞特異的(P)RRノックアウトマウス(cKOマウス)を作成し,in vivo,in vitroの両面から解析をおこなった。cKOマウス(n=4)および野生型同胞マウス(LMマウス,n=2)の頚動脈にテレメトリを挿入して自由行動下血圧測定を行ったところ,生後16週齢までに両者に有意な血圧差は認めなかった.腹部大動脈の経時的組織学的観察では,生後16週齢のcKOマウスで中膜内の弾性板が断裂し,平滑筋細胞数の著名な減少と大動脈の繊維化を認めた.電子顕微鏡による観察では,cKOマウスの血管平滑筋細胞内に空砲やリポフスチン様顆粒が過剰に沈着しており,未消化のオルガネラを含む巨大化したautopkagosomeが多数認められた.さらに隣接する内皮細胞には,vesicleが異常集積している所見を認めた.次に,in vitroの実験として(P)RR floxedマウス由来の培養血管平滑筋細胞にcreアデノウイルスを感染させ(P)RRをノックアウトして解析を行った.(P)RRノックアウトVSMCでは,細胞内オルガネラの膜蛋白に存在するvacuolar H^+-ATPaseのsubunitcの発現の低下,細胞内オルガネラの酸性環境の障害,autophagosomeの隔離膜に発現するLC3-IIの発現増加が認められた.さらに血管平滑筋細胞における炎症性サイトカインのmRNAを定量評価したところ,MCP-1とIL-6が(P)RRノックアウトによりそれぞれ3倍ずつ増加することが認められた.以上より血管平滑筋細胞において(P)RRは正常な細胞機能維持に必須な役割を担い,また炎症性サイトカインの分泌を介して血管内皮細胞へ影響を及ぼしている可能性が示唆された.
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