研究概要 |
【研究の学術的背景】我々は、以前に高血圧性心不全ラットにおいて、アラキドン酸カスケードの代謝酵素の一つである12/15-lipoxygenase(12/15-LOX)が、不全心において炎症及び心臓線維化を惹起し、心不全増悪の1つであることを報告した(kayama, sakamoto et al J Exp Med. 2009)。しかし糖尿病における心臓においての役割は報告されていない。 【目的】糖尿病性心筋症における12/15-lipoxygenaseの役割を検討する。 【方法】糖尿病性心筋症モデルとして、野生型マウスにstreptozotocin(STZ)を投与したSTZ誘発糖尿病マウス(WT-STZ)を用い、その心臓における12/15-LOXと炎症系サイトカインの発現、また酸化ストレスとの関係を検討。12/15-LOX KOマウスを用いて、STZ誘発糖尿病マウス(KO-STZ)を作成し、WT-STZとの炎症系サイトカインや酸化ストレスの発現を比較検討。 【結果】WT-STZの心臓において、12/15-LOX及び炎症系サイトカイン(MCP-1、TNFα)の発現の上昇及び酸化ストレス(4-hydroxy-2-nonenal ; 4-HNE)の亢進を認めた。WT-STZ群は心エコー上、徐々に心機能の低下を認めた。KO-STZの心臓では、炎症系サイトカインの発現の低下と共に、酸化ストレスの産生も低下しており、それに伴って心機能の低下も軽減された。これらの結果より、STZ誘発の高血糖下において12/15-LOXは、心臓の炎症及び酸化ストレスの産生を促進する増悪因子であると考えられた。in vitroにおける培養心筋細胞を用いた検討では、高血糖刺激において12/15-lipoxygenase及び炎症系サイトカインの発現の上昇を認めた。また酸化ストレスの産生も上昇しており、N-Acetyl-cystein(NAC)により酸化ストレスを抑制したところ、心筋における炎症系サイトカインの発現の低下を認めた。 【結論】12/15-LOXは糖尿病心筋症の発症・進展に酸化ストレスを介した炎症系サイトカインの発現に関与しており、12/15-LOXの抑制は心臓におけるそれらの改善に寄与しており、糖尿病性心筋症の新たな治療につながることが示唆された。
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