研究概要 |
喫煙による肺癌発症の機序を、マイクロRNA(miRNA)による制御に着目して分子生物学的に検証し、個別化医療の治療戦略や予後予測などのマーカー確立を目指し研究を計画した。肺癌においてエピジェネティクス異常により発現制御を受けるmiRNAの同定と機能解析を以下の方法で行った。 候補となるmiRNAの条件として、CpGアイランド内のmiRNA、CpGアイランドの下流1k bp以内にあるmiRNA、5'にCpGアイランドを持つhost geneのintron内に位置するmiRNAのいずれかとした。In silicoにて55種の候補miRNAを選定し、肺癌細胞株で発現が抑制され脱メチル化剤処理で誘導が認められる14種のmiRNAを同定した。このうち7種のmiRNAが肺癌臨床組織検体で高頻度に発現抑制を伴っていた。臨床肺癌組織検体でのDNAメチル化を検討した結果、mir-34b,126がDNAメチル化による発現抑制を受けていた。またmir-34b,126の強制発現により標的遺伝子c-Met,CRKの抑制が認められた、臨床検体でもmir-34b,126のDNAメチル化が確認された。また、mir-34b発現低下は肺癌のリンパ管浸潤の危険因子となる可能性が判明した。 更に臨床検体を用いて、これまでに肺癌との関連が報告されたものを含む別の5種のmiRNAのメチル化と発現量の関連を検討したところ、複数の領域でのメチル化は、進んだT因子の危険因子となり、無再発生存期間の短縮と関連が認められた。個別のmiRNAとの関連は認められなかったことから、特定のmiRNAの機能異常によるものより、異常なDNAメチル化の蓄積が癌の進行を反映したものと考えられた。 喫煙歴による発現の違いに関してはこれらのmiRNAでは明らかな差が認められず引き続き解析を行っている。本研究では喫煙による肺癌発症機序をmiRNA制御の観点から検索を開始したが、より広範な臨床肺癌組織検体で認められるエピジェネティクス異常が示された。特にmir-34bはリンパ管浸潤のバイオマーカーとして肺癌術後化学療法の必要性を判断する際の一助となる可能性があり、術後経過の追跡からこの点をさらに検討してゆく。
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