研究概要 |
特発性肺高血圧症における遺伝子異常としてTGF-βファミリーの一つBMPシグナルの異常が明らかとなっているが、如何にこのシグナル異常が病態と関連するのかいまだ十分に明らかになっていない。本研究はこの疾病の病変の首座である肺動脈血管平滑筋細胞や血管内皮細胞におけるBMPシグナル下流のシグナル伝達分子Smad1, Smad5の結合部位を、次世代シーケンサーを用いたChIP-seq法による網羅的解析により同定して、病態へのBMPシグナルの関与を明らかにすることを目的としている。平成22年度は肺動脈血管平滑筋細胞及び血管内皮細胞を用いたSmad1/5のChIP-seqデータ取得を行った。その結果数千に及ぶSmad1/5のゲノム上への結合部位を同定した。その近傍に既知の標的遺伝子Id1を含む、標的遺伝子候補を見出した。発現マイクロアレイによる解析によって、これらの遺伝子が実際にBMPによる制御を受けているかを検討した。またこれらの遺伝子の報告される機能との関係から、病態に関与している可能性のある新規の標的遺伝子を同定した。この遺伝子のBMPによる発現制御について、様々な手法により確認を行った。本研究で同定されたこの新規遺伝子はこれまで肺高血圧症の病態との関与が指摘されている。BMPシグナル異常による発症のメカニズムとして、今後のさらなる解析を踏まえたうえで、この遺伝子発現制御が治療法開発の標的として有望なものとなることが期待される。
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