研究概要 |
近年の研究で肺サーファクタント蛋白SP-Aの生体防御における作用メカニズムが明らかにされつつあるが、肺がんの発生とその進展への関わりはヒトにおける現象論に基づく報告がほとんどであり、分子レベルでのアプローチは適切な疾患モデルがないためになされていないのが現状である。これらを踏まえ、本研究課題では、肺内微小環境下で肺がんの増殖・進展・転移におけるSP-Aの役割とその作用機序について解析するととを目的とした。当初の目的通り、SP-A発現を認めないヒト肺がん細胞株(PC14PE6およびA549細胞)にレトロウイルスを用いてSP-A遺伝子を導入し、SP-A強制発現株を作成した。これらの細胞を用いて以下の結果を得た。 1.強制発現株を免疫木全マウスの尾静脈より接種し、形成された肺転移巣を検討したところ、コントローラレ細胞と比較して肺転移形成や胸水産生能の低下が認められた。 2.In vitroにおいては、これらの細胞で増殖能や細胞周期に差は認められなかった。 3.上記で得られた結果から、SP-Aの腫瘍微小環境に与える影響を検討した。各群から得られた肺転移巣より組織切片を作成し免疫染色を行ったところ、強制発現株の腫瘍組織内では腫瘍関連マクロファージ(TAM)が有意に増加しており、また中でも腫瘍増殖に抑制的に働くM1マクロファージの増加が認められた。腫瘍増殖を促進すると考えられているM2マクロファージ数は減少していた。さらに、腫瘍組織よりmRNAを抽出しM1およびM2誘導因子の発現をRT-PCRで検討したところ、M1誘導因子(CCL5、TNFα、IL-1β等)の発現は有意に強制発現株で増加していたが、M2誘導因子(Arg1、MRC1)は変化がなかった。 以上の結果から、SP-Aはマクロファージの極性を抗腫瘍作用を持つM1へと誘導し、,肺がん進展に抑制的に働くことが考えられた。
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