研究概要 |
特発性肺線維症(IPF)は慢性進行性の肺線維化疾患で、予後不良でその発症機序は不明である。IPFは、上皮傷害とそれに引き続く筋線維芽細胞増殖、細胞外マトリックス沈着を特徴とし、正常肺構築の破壊が生じて最終的に呼吸不全に陥る。線維化の開始と進行に、上皮が"火付け役"として中心的役割を成し、なかでも上皮細胞が筋線維芽細胞に形質転換する上皮間葉転換(Epitheliahesenchyl maltransition : EMT)が、筋線維芽細胞の起源として重要とされる。申請者はこれまでに、細気管支肺胞上皮特異的Pten欠損マウスを用いてブレオマイシン肺線維症モデルを作製し、細気管支肺胞上皮でのPten発現は肺線維症の発症制御に決定的に重要であることを突き止めている。今年度は、肺上皮Ptenの肺線維症進展と上皮間葉転換に関与する分子への影響を解析した。Pten欠損マウスは野生型と比較して肺傷害後の気管支肺胞洗浄液中活性型TGF-β濃度に差がなかった一方、肺組織抽出蛋白および単離肺上皮抽出蛋白において、EMTを正に制御するpAkt, pS6K, Snailの発現が亢進し、EMTを負に制御するE-cadherin, claudin-4, lamininの発現が低下していることを見出した。Akt阻害剤を肺傷害後Pten欠損マウスに連日腹腔内投与した結果、肺線維化が軽減し対照群と比較して有意に生存率を延長した。IPF症例の肺組織を用い、IPF症例群では対照群と比較して肺上皮でのPTEN蛋白発現減弱とpAKT発現亢進があることを見出した。以上の結果から、肺上皮細胞におけるPten/Akt経路が、とくに常軌を逸したEMT過程を制御することにより、肺線維症の治療標的に成り得ることが示された。
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