肺コレクチンは、レジオネラ感染時の宿主細胞の膜傷害を軽減する。また、レジオネラ菌を取り込んだファゴソームの成熟を促進することで、マクロファージ内でのレジオネラの増殖を抑制する。本研究課題では、肺コレクチンがレジオネラ菌の細胞内増殖を抑制する分子メカニズムを解明することを目的に研究を行なった。昨年度の研究成果から、肺コレクチンはレジオネラ感染により誘導されるオートファジーを抑制することが明らかとなった。レジオネラはIV型分泌装置を介して宿主細胞内に様々なエフェクター分子を注入することで、宿主細胞の免疫応答を撹乱して細胞内で生存する環境をつくることが知られている。これまでの研究成果は、肺コレクチンがIV型分泌装置のはたらきを阻害していることを示唆している。そこで、IV型分泌装置を介して宿主細胞にエフェクター分子を注入すると宿主細胞内のcAMP濃度が上昇するような実験系を用いて、肺コレクチンがIV型分泌装置のはたらきに与える影響を解析した。マクロファージによるレジオネラ菌の食食効率は、肺コレクチン存在下ではむしろ増加する傾向にある。それにもかかわらず、肺コレクチン存在下では、IV型分泌装置のはたらきが有意に低下することが明らかとなった。これらの結果は、肺コレクチンがIV型分泌装置のはたらきを抑制することで、レジオネラ菌が宿主細胞内にエフェクター分子を注入することができず、その結果として細胞内増殖が抑制されていることを示唆している。 肺コレクチンは呼吸器における生体防御にとって非常に重要な役割を果たすことが多くの報告から明らかになってきている。しかしながら、本研究課題の結果から示唆されるような分子機構はこれまでに報告がなく、新規性の非常に高い知見を得ることができた。今後、細胞内寄生菌を原因とする感染症の予防・治療法として応用できる可能性がある。
|