SOCSアデノウイルスベクターを用いて悪性胸膜中皮腫細胞株においてSOCS分子を強制発現させた結果、細胞増殖抑制効果がみられ、アポトーシス誘導、細胞周期制御、細胞浸潤抑制がみとめられた。この分子メカニズムとしてJAK/STAT3、NFkB、FAK、Akt、ERKシグナル伝達経路の抑制がみられ、さらにSOCSがp53と相互作用し、p53の発現を亢進していることを明らかにした。これらの結果をもとに、ヌードマウスの胸腔内に悪性胸膜中皮腫細胞株を移植して、悪性胸膜中皮腫モデルマウスを作成し、SOCSアデノウイルスベクターを胸腔内投与した結果、コントロールのLacZアデノウイルスベクター投与マウスと比較して有意に胸腔内腫瘍重量の低下がみられた。さらにSOCSアデノウイルスベクターと抗癌剤(悪性胸膜中皮腫に対する標準治療であるシスプラチンとペメトレキシド)を併用することによって悪性胸膜中皮腫に対して相乗的な抗腫瘍効果が得られることをin viroおよびin vivoにおいて示した。以上の結果から、SOCSアデノウイルスベクターが悪性胸膜中皮腫に対して様々なメカニズムで抗腫瘍効果を発揮することを明らかにし、さらに従来の抗癌剤との併用によって相乗的な抗腫瘍効果が得られることを示した。過去においてSOCS分子の悪性胸膜中皮腫に対する抗腫瘍効果をin viroおよびin vivoの両面において明らかにした研究はなく、さらに従来の抗癌剤との併用療法の有用性を示したことから本研究は悪性胸膜中皮腫の新規治療法開発につながる意義をもつ研究といえる。悪性胸膜中皮腫は胸腔内で進展するが、遠隔転移が生じにくいという特徴があるため、本研究における悪性胸膜中皮腫に対するSOCSアデノウイルスベクターの胸腔内投与モデルは悪性胸膜中皮腫の局所療法として実地臨床への応用が期待される。
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