本研究では、3種類の薬剤性急性腎障害(AKI)モデルにおいて新規尿バイオマーカーを経時的に測定し、組織学的な腎障害の早期診断および重症度予測に対する有用性を各バイオマーカーについて検討するとともに、複数の尿バイオマーカー測定値を組み合わせたパネル化による評価方法の有用性について統計解析手法を適用して検討することを目的とする。 L-FABP変異型マウスによる重症化造影剤AKIモデルを作成し、経時的に採血するとともに代謝ケージを用いて蓄尿してBUN、尿NAG、尿L-FABPを測定した。また、造影剤投与12時間後、CCD video microscopeで傍尿細管血管係蹄の赤血球流速を計測したところ、対照群と比較して造影剤群で尿L-FABPは61.3倍まで著明な増加を示す一方、血流速度は造影剤群で有意な低下を認め、Log変換尿L-FABPと血流速度に有意な逆相関を認めた。腎組織所見では造影剤群に尿細管上皮細胞の空胞変性と近位尿細管でのL-FABP発現増加、HHEなどの過酸化脂質沈着が見られた。また、L-FABP変異型マウスによる造影剤AKIモデルでは、造影剤投与量増加とともに尿細管障害が高度になり、尿L-FABPも用量依存性の増加が認められた。In Vitroにおいても造影剤添加により培養尿細管上皮細胞でのL-FABP mRNA発現増加が確認された。さらに、バンコマイシンやゲンタマイシンによる薬剤性AKIにおいても組織学的な尿細管障害所見に伴って尿L-FABPが増加することを確認した。尿L-FABPは薬剤による腎毒性や腎血流速度の低下を反映して尿中に検出される腎障害バイオマーカーとして有用であることが示された。
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