研究概要 |
平成23年度は、尿細管細胞におけるHIF-3αの機能的役割を解明することを主眼として研究を遂行した。 平成22年度の研究成果より、HIF-3αの過剰発現はHIF-1を介する低酸素転写応答を減弱させることが明らかとなったため、次にテトラサイクリン誘導性HIF-3α過剰発現HEK293細胞を作製し、その細胞特性を増殖、遊走・分化、細胞死の観点から調べた。HIF-3αの過剰発現は細胞増殖やアポトーシスに影響を与えなかった一方で、scratch assay法によって低酸素環境における細胞の走化性獲得を有意に抑制することが明らかとなった。そこで、過去にHIF-1標的遺伝子として報告され、細胞走化能に関与すると考えられた遺伝子群に標的を絞り、その発現プロファイルを可及的網羅的に調べたところ、HIF-3の過剰発現がlysyl oxidase(LOX)やLOX-like2(LOXL2)の低酸素発現誘導を選択的かつ最も顕著に抑制することが明らかとなった。今後、レトロウイルス発現系を用いてHIF-3α過剰発現近位尿細管細胞株(HK-2)を作製し、低酸素環境下での尿細管走化能、およびLOX,LOXL2の発現変動を調べていく予定である。 次に内因性のHIF-3αが果たす機能的役割について考察を加えるため、HIF-3αのノックダウン実験系を確立した。過去に申請者らが使用していたターゲット配列においては、必ずしも十分なノックダウン効率が得られず、実験結果の一義的な解釈が困難であったため、新たに候補標的配列をスクリーニングし、高効率ノックダウンをもたらす配列を同定した。今後、同siRNAを培養尿細管細胞にリボソーム法にて一過性トランスフェクションし、低酸素条件下での遺伝子発現プロファイルを網羅的に探索する予定である。
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