平成23年度までの研究成果により、HIF-3αの過剰発現は既知のHIF-1標的遺伝子のうち、lysyl oxidase (LOX) の低酸素誘導を選択的に抑制することが明らかとなった。腫瘍上皮細胞を用いた過去のLOX機能解析の結果より、LOXは腫瘍の増殖・転移に重要な上皮・間葉形質転換 (EMT) を促進する因子であることが知られている。以上の背景に基づき、平成24年度は、「尿細管上皮細胞において低酸素依存性に発現するHIF-3が、腎線維化の一機序と考えられているEMTに拮抗する因子として機能する」との仮説を立て、これを検証した。 同目的のため、培養近位尿細管細胞(HK-2)を使用し、レトロウイルス法による遺伝子導入を用いてHIF-3α過剰発現株を作成した。同株に対し、低酸素環境下での尿細管上皮マーカーの消失、上皮走化能獲得、および細胞外器質タンパクの発現を調べ、HIF-3が尿細管細胞の低酸素誘導EMTに果たす役割を総合的に評価した。HIF-3α過剰発現株において、低酸素によるE-カドヘリンの消失はより軽度であり、細胞走化能獲得は抑制され、fibronectinなどの細胞外器質発現も軽度となることが確認された。さらにこれらの形質の変化は、siRNA法によるHIF-3αのノックダウン実験系によっても実証された。以上の結果により、尿細管上皮に発現するHIF-3は、低酸素によってもたらされるEMTに拮抗する因子であると考えられた。
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