研究課題
腎疾患に対する再生医療の開発は、医学的のみならず医療経済的にも急務であるが、現在までのところ、ヒトES細胞(胚性幹細胞)やヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)から試験管内で腎臓系譜の細胞を選択的に分化誘導する方法は確立されていない。この目的の達成のため、平成22年度には、増殖因子の組み合わせ処理にてヒトiPS細胞から腎臓を派生させる胎生組織である「中間中胚葉」の細胞を分化誘導する方法を開発し、中間中胚葉のマーカー遺伝子である核内転写因子OSR1のレポーターヒトiPS細胞株の樹立を開始した。本年度は、レポーターヒトiPS細胞株を完成させ、フローサイトメトリーを用いてヒトiPS細胞由来のOSR1陽性細胞を単離することを可能とした。そして、それらの細胞とOsr1-GFPノックインレポーターマウスの胎児から単離されたOsr1陽性中間中胚葉とを比較解析することによって、両者が類似した遺伝子発現を示すことを確認した。また、ヒトiPS細胞から誘導されたOSR1陽性細胞を単離し、試験管内での長期培養や免疫不全マウス精巣への移植によって、それらの細胞が腎臓、副腎皮質、生殖腺など中間中胚葉由来臓器の構成細胞に分化可能であることも確認した。さらに、マウス胎児腎臓への移植後に、ホスト組織に組み込まれて尿細管様構造を形成することも明らかになった。しかし、申請者らが開発したヒトiPS細胞から中間中胚葉への分化誘導法は、ヒトES細胞には同様に有効であるが、マウスiPS細胞に対しては有効ではないことも判明した。以上、ヒトiPS細胞から生体内のものと同等の発生生物学的機能を有する中間中胚葉細胞を作製する方法を確立した。本研究の成果は、腎臓のみならず副腎や生殖腺など中間中胚葉由来臓器の再生医療の進展に大いに貢献するものであると考える。
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腎と透析
巻: 72 ページ: 209-213
医学のあゆみ
巻: 239 ページ: 1379-1384