慢性腎臓病(CKD)により末期腎不全に至り透析療法を必要とする患者は増加の一途をたどっており、患者の生命予後とともに医療経済上も深刻な問題となっている。また、慢性腎臓病は心血管イベントの危険因子であることからも腎障害の進行を抑制する新たな治療法の開発が急務となっている。2型糖尿病性腎症をはじめとした様々な病因により末期腎不全へと進行するが、共通した腎組織学的変化は糸球体硬化と尿細管間質線維化と考えられている。ONO-1301は構造的に安定な非プロスタノイド骨格の化合物で、長時間作用型のプロスタサイクリン(PGI2)アゴニストとトロンボキサンA2阻害作用による強力な抗血小板作用を有する。これまでにONO-1301による肺線維症モデルにおける線維化抑制効果、心筋梗塞モデルにおける左室拡張能改善効果、生存率の改善が報告されている。ONO-1301による治療効果の発現機序として、血管平滑筋細胞におけるERKリン酸化抑制、間葉系細胞からのHGF(肝細胞増殖因子)発現誘導等が検討されている。本研究では腎疾患動物モデルを用い、OKO-1301による尿細管間質線維化制御作用、2型糖尿病性腎症進展抑制作用について検討を行う。さらに抗HGF抗体を用いて、HGF誘導作用の重要性について検討する。また、培養メサンギウム細胞、糸球体足細胞における炎症、線維化関連因子やHGF発現へのONO-1301の影響についても検討する。まず、片側尿管結紮(UUO)モデルマウスに徐放性ONO-1301(SR-ONO)を投与したところ、対照群に比して腎間質線維化、間質炎症細胞浸潤、FSP1陽性細胞数増加が抑制され、TGF-β1発現増加、Smad2/3リン酸化が有意に抑制された。抗HGF抗体投与によりSR-ONOによる治療効果は減少し、HGF産生を介する可能性が考えられた。培養尿細管上皮細胞(mProx24)にて、TGF-β1刺激下でのE-cadherin低下がONO-1301投与にて抑制され、EMT抑制効果が示唆された。以上の検討より、ONO-1301による尿細管間質障害抑制効果が示され、CKD進展抑制における有用性が示唆された。
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