糖尿病性腎症のバイオマーカーとしての尿中FSP1の臨床的意義を検討するために、2009~2010年に当科で腎生検を実施した糖尿病性腎症患者の中でインフォームド・コンセントを取得した24例の尿中FSP1値を測定した。尿検体には、治療開始前、腎生検実施日の早朝第1尿を用い、測定値はクレアチニン値で補正した。尿中FSP1は、24例中20例で測定感度以下であった。測定した4例においても、臨床所見や病理所見との関連は認められず、尿中FSP1は糖尿病性腎症の有用なバイオマーカーでないと考えられた。 つぎに、ポドサイトにおけるEMT誘導因子を検討する目的で、ポドサイト細胞株を高糖濃度、アンジオテンシンII刺激下、およびTGF-beta1刺激下で培養し、EMT関連因子の発現誘導をreal time PCR法で検討した。ポドサイト細胞株をTGF-beta1 (10ng/ml)存在下に24時間培養することで、EMT誘導因子であるSnail1とLOXの有意な発現亢進が認められた。また、線維芽細胞マーカーであるcollagen type 1およびfibronectinの発現亢進も認められた。一方、高糖濃度およびアンジオテンシンII刺激下では、有意なEMT誘導因子の発現はなかった。 最後に、糖尿病性腎症の進展におけるFSP1の役割をin vivoで検討する目的で、ポドサイト特異的にFSP1を過剰発現するトランスジェニックマウス(FSP1.TG)とFSP1ノックアウトマウス(FSP1.KO)に、ストレプトゾトシン(STZ)投与による糖尿病モデルを作製した。しかし、これらの遺伝子改変マウスであるコントロールマウスにおいても、有意な腎病変の出現は認められなかった。STZモデルは腎症解析には有用なモデルとはいえないため、今後モデルを変更して、FSP1のin vivoにおける役割を検討する。
|