血管石灰化は慢性腎臓病(CKD : chronic kidney disease)患者の重要な心血管系合併症のひとつである。CKD患者に特徴的な動脈中膜石灰化病変は、これまでは高血圧やミネラル・脂質代謝異常、喫煙、加齢などの因子の長期的暴露による受動的なミネラルの沈着としてとらえられてきたが、近年、血管平滑筋細胞の骨芽細胞様細胞への形質転換など能動的プロセスによって発症、進展することが明らかにされた。我々は、血管中膜の弾性層板を主成分であるエラスチンの分解と血管平滑筋細胞の形質転換の関連性に注目してきた。MMP-2(matrix metalloproteinase-2)は、エラスチン分解酵素のひとつであり、透析患者の血管中膜石灰化との関連性が報告されているが、エラスチン分解と血管石灰化病変との関連性は十分には解明されていない。本研究では、エラスチン分解が中膜石灰化病変と関連する検討に用いるべきモデル動物の確立を目的とした。5/6部分腎摘出ラットを高リン(P、1.2%)および乳酸(20%)を含有した飼料にて10週間飼育したのち、これらラットの大動脈組織を分子生物学および組織学的に検討した。同モデルラットでは1)血圧や血中Cre、P、PTH値が著明に上昇していた。2)Von Kossa染色により、大動脈中膜に石灰化病変が確認された。3)エラスチン染色により、石灰化部位での弾性層板の細小化と断裂が確認され、エラスチン分解の存在が示唆された。4)同部位においてMMP-2の発現が免疫組織学により確認された。以上の結果から、同モデルラットは大動脈中膜の石灰化モデルとして有用であり、また本モデルラットの中膜石灰化病変にはMMP-2発現を介したエラスチン分解が関与している可能性が示唆された。
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