神経障害性疼痛は、難治性慢性疼痛の一因となるが、その発生機序の可塑性・多様性から、現在決定打となる治療法がないことが問題とされる。近年、末梢神経軸索の興奮性増大(Na電流亢進)が動物実験で示され、一機序として提唱されている。当研究は上記知見に基づき、軸索イオンチャネル機能検査システムを用いて、末梢神経障害患者における神経障害性疼痛の末梢性機序を検討し、新規治療創出の為の理論的基盤の構築を目的とした。 本年度は、末梢神経疾患による神経障害性疼痛患者17名において上肢大径感覚線維での軸索興奮性評価を行った。患者群では軸索興奮性が増大しているが、Naチャネル阻害剤投与により軸索興奮性は低下し疼痛も改善した。しかし、疼痛症状の改善度と軸索興奮性の低下度は相関せず、中枢性機序の関与が示唆された。上記の知見は、疼痛患者において初めて軸索興奮性増大と治療効果を客観的に示した研究であり、国際誌に論文として公表した。 また、以上の結果を踏まえ、末梢神経疾患で障害のより強い下肢感覚神経の軸索興奮性の検討、疼痛の中枢性機序の電気生理学的検討へと、現在、研究を発展させている。下肢大径感覚線維での軸索興奮性の評価は正常者で評価系を確立し、今後、正常値の作成と末梢神経疾患患者の評価へと進めていく予定である。 また、中枢性機序の検討は疼痛に直接的に関与する小径線維(Aδ、C線維)の電気刺激による感覚誘発電位の評価により、客観的、定量的評価法の確立を試みている。
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