神経障害性疼痛は、難治性慢性疼痛の一因となるが、その発生機序の可塑性・多様性から、現在決定打となる治療法がないことが問題とされる。近年、末梢神経軸索の興奮性増大(Na電流亢進)が動物実験で示され、一機序として提唱されている。当研究は上記知見に基づき、軸索イオンチャネル機能検査システムを用いて、神経障害性疼痛の病態機序を検討し、更に新規治療創出の為の理論的基盤の構築を目的とした。 これまでに、神経障害性疼痛患者21名において上肢大径感覚線維での軸索興奮性評価を行った。末梢神経障害に伴う神経障害性疼痛患者群では軸索興奮性が増大しているが、Naチャネル阻害剤投与により軸索興奮性は低下し疼痛も改善した。しかし、疼痛症状の改善度と軸索興奮性の低下度は相関せず、中枢性機序の関与が示唆された。上記の知見は、疼痛患者において初めて軸索興奮性増大と治療効果を客観的に示した研究であり、国際誌に論文として公表した。また、非末梢神経疾患による神経障害性疼痛群では上記相関が乏しい傾向が見られ、末梢性疼痛機序以外の関与が疑われた。以上の結果を踏まえ、まず末梢神経疾患で障害のより強い下肢感覚神経の軸索興奮性の検討を試みたが、下肢では上肢に比べ信号-雑音比(S/N比)が小さく、従来の表面電極記録のみでは安定した軸索興奮性評価系の確立は困難と思われた。今後針電極記録等S/N比が大きく微小な神経電位導出に適した手法の導入を検討している。また、疼痛治療創出の為の理論的基盤の一つとして、中枢性疼痛機序に関する電気生理学的評価法を検討した。神経障害性疼痛患者9名において小径線維(Aδ、C線維)の電気刺激による感覚誘発電位の評価を行い、両神経刺激による振幅比(C/Aδ振幅比)増大等の反応の相違を認めた。これらは中枢性疼痛機序の興奮性変化の指標となる可能性があり、現在中枢性疼痛機序の客観的、定量的評価法の確立を試みている。
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