本研究は新規神経保護薬としてのリチウムについて、脳梗塞急性期の血栓溶解療法として用いられる組織プラスミノーゲン・アクチベーター(t-PA)の神経傷害作用を軽減する効果について検討した。リチウムはt-PAの血管障害作用抑制の他、アポトーシス抑制作用により神経保護的に作用すると考えられる。 我々はまず、ラット遠位中大脳動脈閉塞モデルに対し虚血後にリチウムを腹腔内投与し、脳梗塞の縮小効果を確認した。さらにこの脳組織において、リチウムが直接阻害するGSK3βを調節するタンパクであるAktのリン酸化が亢進していないことを見いだした。 さらにリチウムによる治療効果を示すため、自家血栓を用いたラット脳塞栓モデルおよび、このモデルに対するt-PAの治療効果と出血性合併症を安定して再現することが前提として必要であった。虚血時間、自家血栓の量、t-PA投与量など様々な条件設定の最適化を行った結果、自家血栓による安定した梗塞体積が得られた。さらにt-PAの脳虚血2時間後の投与で血栓溶解による梗塞体積の縮小効果を示し、また脳虚血4時間後のt-PA投与では出血性合併症の増加と死亡率の増加を示すという、きわめてヒトの脳塞栓症に対してのt-PAの治療効果と副作用をよく再現するモデルの作成に成功した。このような動物モデルは手技上の難しさから未だ使われる報告は少なく、本モデルの確立は今後の本研究、ないし異なる薬剤を標的とした研究を行うにあたり大きな優位点と考えている。 引き続き本モデル動物を使用し炭酸リチウムの腹腔内投与を行い神経保護作用について現在検討中である。 また、ラット中大脳動脈遠位閉塞モデルを使用し、リチウムの作用機序の1つとされるGSK3βおよびβカテニンのリン酸化について検討中である。
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