研究概要 |
糖尿病性末梢神経障害の成因として糖尿病性細小血管症による微小血管障害が一因であると考えられている.神経内膜内微小血管は血液神経関門(hlood-nerve barrier: BNB)の局在する部位であり,糖尿病性末梢神経障害患者の腓腹神経病理像では,BNBを構成する神経内膜内微小血管の基底膜肥厚,ならび血管内皮の過形成,ペリサイトの変性を認めBNBが破綻することが知られている.一方,糖尿病性末梢神経障害では後期糖化反応生成物(advamced glycation endproduct: AGE)カミ末梢神経のシュワン細胞や軸索,およびBNB構成細胞である末梢神経神経内膜内微小血管内皮細胞(peripheral nerve microvascular endothelial cell: PnMECs),ペリサイト,基底膜に蓄積することが知られている.しかし,AGEがどのような分子メカニズムでBNBを破綻させるかは今までに明らかにされていなかった.そこで,我々が樹立したPnMECsとpericyteからなるBNB in vitroモデルを用いて糖尿病性末梢神経障害におけるBNB破綻の分子メカニズムを解明することを目的とした.ペリサイトにAGEを作用させると,ペリサイトから産生される基底膜関連分子であるFihronectimとCollagentypeIVの発現が増加し,ペリサイトから放出されるMMP-9の産生が低下したことをWesternblot法で確認した.ペリサイトにTGF-βやVEGFを作用させると,ペリサイトから産生されるFibronectinとCollagentypeIVの発現が増加した.さらに,ペリサイトにAGEと併せて抗TGF-β中和抗体や抗VEGF中和抗体を作用させるとFihronectinとCollagentypeIVの発現が低下した.次に,PnMECsにAGEを作用させるとPnMECsのtight jumction関連蛋白であるclaudin-5の発現が低下し,バリア機能を反映する電気抵抗値が低下したが,抗VEGF中和抗体を併せて作用させるとclaudin-5の発現と電気抵抗値が増加した,これらの結果より,糖尿病性末梢神経障害においてAGEはVEGFを介しBNBのバリア機能を破綻させ,TGF-β,VEGFにより基底膜の肥厚を生じていると考えられた.実際の糖尿病性末梢神経障害の病理所見で認められるBNBでの基底膜の肥厚やバリアの破綻をBNB in vitro modelで再現し,そのBNB破綻メカニズムを分子レベルで明らかとした.
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