平成22-23年度は、健常被験者に対して、手指運動強化課題によって誘導される内因性ドパミン量と運動皮質の脳可塑性をそれぞれ非侵襲的脳機能研究法である[11C]-ラクロプライドPETと経頭蓋的磁気刺激法(TMS)を用いて多面的に評価する新たな手法を確立した。 具体的には、1) ラクロプライドPETを用いた評価では、手指運動強化課題中に、大脳基底核(特に線条体)に内因性ドパミンが誘導されるかをドパミンD2受容体の可逆性アンタゴニストであるラクロプライドBinding Potential; BP変化量として定量化した。2) TMSを用いた大脳一次運動野の脳可塑性の評価では、大脳一次運動野にTMSを与え、運動皮質の脳可塑性をMotor evoked potential; MEP変化率で指標化した。平成23-24年度は、健常者で確立した手法をパーキンソン病患者に適応した。その結果、健常被験者では、手指運動強化課題により非効き手である左手指の運動技能が強化されると同時に、右(対側)線条体に内因性ドパミンが放出されることが証明された。被核にマスク画像を置くvoxel by voxel解析では前側方被殻に有意な変化を認め、Diffusion tensor imagingの既報告から運動前野から一次運動野とのfiber connectionが強い機能的領域が関与することが示された。しかしながら、パーキンソン病患者では運動技能が強化されず、右線条体での内因性ドパミンの放出が低下していた。 以上より、運動技能強化には被殻における内因性ドパミンの放出が重要であり、技能強化過程における運動皮質-基底核路の動的変化にドパミンが重要な役割を果たすことが示唆された。
|