本年度は、SLPI投与の影響をみる前段階として、in vitro、in vivo脳虚血モデルにおいて正常脳細胞、脳組織がどのような影響をうけるかについての基礎実験を行った。 In vitroにおいては、低酸素、無グルコース環境下でアストロサイトのグルコース代謝動態がどのように変化するかについて検討を行った。SDラットの新生仔大脳皮質よりアストログリアを調整し、培養21日目に低O_2/無Glucose負荷後のPentose Phosphate Pathway(PPP)活性、活性酸素(ROS)産生率を測定した。ERストレス評価のためBip発現、Nrf2核移行について免疫組織学的に検討した。低O_2負荷直後のPPP活性は亢進し、再O_2後12h後まで持続、ROS発生率はsham群以下に低下した。低O_2+無Glucose負荷/再O_2+Glc後にPPP活性化は観察されなかった。免疫染色結果より、PO_2変化はBip発現を誘導せずNrf2核移行とPPP活性化を惹起することがわかり、脳虚血再灌流時には高Glucose環境とは異なるPPP活性制御メカニズムが存在する可能性が示唆された。 In vivoのシステムにおいては、C57BL/6Jマウスの左頭頂側頭葉上に頭窓を作成、尾静脈のカテーテルからFITCラベル赤血球を静注後、約50μmの深さにおける脳局所微小循環を頭窓を通して蛍光生体顕微鏡を用いて観察、ビデオカメラに連続記録した。脳虚血前、FITCラベル赤血球が微小血管内を一定方向に流れている様子が明瞭に観察されたが、脳虚血直後には血管内を流れる赤血球の数が著明に減少し、しばしば血管内で停滞し、前大脳動脈から逆流した。脳虚血後、総頸動脈における結紮の解除により一部順向性の血流が回復し、さらに塞栓糸の解除によりほぼ完全な血流の再開通が確認された。その翌日には、脳血流はやや減少し、再還流障害が示唆された。
|