近年、アルツハイマー病やポリグルタミン(PolyQ)病など多くの神経変性疾患において、治療薬候補として原因蛋白質の凝集を阻害する化合物のスクリーニングが盛んに行われて来た。しかし同定された化合物には標的蛋白質に非特異的に結合する擬陽性が多く含まれることが問題であった。さらに最近これらの疾患原因蛋白質は凝集体を形成する前のオリゴマーの段階で毒性を発揮すると考えられるようになり、凝集体形成そのものではなくオリゴマー形成を抑制する治療薬候補化合物を選択する必要性が示された。本研究では、我々が樹立した1)PolyQ病の原因蛋白質に対する結合特異性を計測する方法(SPR)、さらに2)細胞内の毒性オリゴマーを計測する方法(FCS)を応用し、PolyQ病の原因蛋白質に特異的に結合するオリゴマー阻害化合物をスクリーニングし、PolyQ病の治療薬開発を目指す。 今年度は、我々がハイスループットスクリーニングにより異常伸長PolyQ蛋白質の凝集阻害活性をもつことを明らかにした化合物について、異常伸長PolyQ蛋白質の細胞内毒性PolyQオリゴマー形成に対する阻害活性を測定した。そしてその中で著名にオリゴマー形成を阻害した化合物QSI-1について、PolyQ病モデルショウジョウバエに対する効果を検討した。QSI-1をハエの餌に混ぜて経口投与することにより、PolyQ病モデルショウジョウバエの複眼変性が抑制されることを確認した。さらに複眼原基の免疫染色により異常伸長PolyQ蛋白質の封入体形成もQSI-1により抑制されることが明らかとなり、QSI-1のin vivoでの治療効果が示された。
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