本研究の目的は、肥満に伴う内臓脂肪組織の低酸素環境が、インスリン抵抗性の原因となるM1マクロファージの分化誘導に与える影響を明らかにすることである。本年度の検討において、我々はPPARγ活性化作用を有するアンギオテンシンII受容体拮抗薬、テルミサルタンが肥満脂肪組織のマクロファージを炎症性のM1から抗炎症性のM2有意に変化させることを見出し報告した(Fujisaka et al. Endocrinology.2011 Mar 22.[Epub ahead of print])。さらに、C57BL/6Jマウスを高脂肪食投与により肥満にすると、脂肪組織中のマクロファージを含む分画に低酸素関連の遺伝子発現レベルが上昇し、低酸素のマーカー分子であるピモニダゾールの取り込みが増加することを見出した。これらのことから肥満内臓脂肪組織は低酸素状態になっていることが明らかとなった。一方、内臓脂肪組織に浸潤する炎症性のM1マクロファージと抗炎症性のM2マクロファージをフローサイトメトリーで解析すると、M1マクロファージの方でピモニダゾールの取り込みが増強しており、低酸素関連の遺伝子発現レベルも上昇していた。すなわち、肥満内臓脂肪組織の低酸素環境がM1マクロファージの分化誘導に関与している可能性が示唆された。マウス骨髄由来単球を24時間低酸素環境(1%O2)下で培養すると、CD11cやIL-1β、IL-6などいくつかのM1マーカーが増加した。これらのことから、肥満により内臓脂肪組織が低酸素環境となり、M1ATMの分化誘導に関与している可能性が示唆された。現在は転写因子レベルでの制御機構を検討中である。本研究により、「低酸素」という新たなM1マクロファージの分化誘導因子が明らかとなる可能性がある。肥満内臓脂肪組織におけるマクロファージの制御機構が明らかになることは、メタボリック症候群の新たな治療戦略となり得る、極めて意義深いものであると考えている。
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