本研究では、糖尿病やメタボリックシンドロームに共通する基本病態である慢性炎症に着目し、肥満により誘導される炎症がどのように糖脂質代謝の恒常性を破綻させるかというメカニズムを解明することを目的としている。肥満による炎症とインスリン抵抗性をリンクする分子としてケモカインとその受容体に着目し、肥満によるインスリン抵抗性の病態形成に密接に関与する新規ケモカインシステムの同定とその機能解析を行っている。 本年度は、肥満モデルマウスの脂肪組織では、すでに報告されているCCR2系とは独立して、CCケモカインであるCCR5とそのリガンドが増加していることを見出した。次に、肥満によるインスリン抵抗性の形成におけるCCR5の重要性を明らかにするために、CCR5欠損マウスの代謝表現型の解析を行った。高脂肪食を負荷し肥満を誘導したCCR5欠損マウスでは、対照マウスに比べて、脂肪組織へのマクロファージの浸潤が減少しインスリン抵抗性と耐糖能異常が減弱することを明らかにした。さらに、肥満のCCR5欠損マウスの脂肪組織では、TNF-αの発現低下、MAPキナーゼ、NF-κBシグナル増強の抑制、小胞体ストレスの減弱がみられ、また、肝臓の脂肪蓄積が減少していた。すなわち、CCR5の欠損により、総じて肥満に伴う全身のインスリン抵抗性および糖脂質代謝異常の発症は抵抗性を示すことから、肥満による炎症の誘導とインスリン抵抗性の形成において、ケモカイン受容体CCR5によるシグナルが重要であることを明らかにした(第70回アメリカ糖尿病学会(ADA)口演)。
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