本年度は、Epac2を活性化しないことが示されているグリクラジド(GLC)とGLP-1の組み合わせ効果を検討した。マウス膵灌流実験によりインスリン分泌を検討したところ、GLCとGLP-1の組み合わせによるインスリン分泌の増強効果は野生型マウスにおいても前年度に検討したグリベンクラミド(GLB)またはグリメピリド(GLM)とGLP-1の組み合わせに比べて弱く、またEpac2欠損マウスと比較しても顕著な差が見られなかった。したがって、SU薬とインクレチンの相互作用はEpac2に対するSU薬の作用の違いに依存することが示唆された。次に、EpacまたはPKAに選択的に作用するcAMPアナログを用いてインスリン分泌動態を検討した。野生型マウスにおいて、Epac選択的cAMPアナログである8-pCPT-2’-O-Me-cAMPとGLBの組み合わせにより早期および後期のインスリン分泌が著しく増強された。一方、PKA選択的cAMPアナログである6-Bnz-cAMPとGLBの組み合わせでは主に後期の分泌が増強されるのみであった。したがって、SU薬とGLP-1の組み合わせによるインスリン分泌増強にはEpac2シグナルが重要であることが示唆された。 前年度までに、SU薬とcAMPの組み合わせによりEpac2の下流因子であるRap1の活性化が増強されることを明らかにしたが、Rap1活性化の増強とインスリン分泌増強との関連を明らかにするために、cAMPの非存在下でもRap1を強力に活性化する恒常的活性化型Epac2(CA-Epac2)をインスリン分泌細胞株MIN6に導入し、インスリン分泌を検討した。CA-Epac2を発現させた細胞では、対照細胞に比べGLBまたは高濃度グルコース刺激によるインスリン分泌が顕著に増強したことから、Rap1活性化の増強がインスリン分泌増強に寄与することが明らかになった。
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