高血糖による合併症の発症過程を解明することは、糖尿病合併症の発症や進展を抑止する上で重要である。本研究では、高血糖による糖尿病合併症発症機序の一つとして、高血糖による組織内低酸素状態の誘導が関与する可能性を考えた。糖尿病合併症の標的組織として腎臓の糸球体・網膜に着目し、高血糖による組織内低酸素状態誘導の可能性とこの現象に対するmtROSの関与について解析した。[方法]A)ウシ大動脈内皮細胞(BAEC)を使用したin vitroの系において、正常酸素環境下および低酸素環境下でグルコース濃度を5.5mM、25mMに割り振って培養し、1)低酸素環境下で発現量が増加する転写因子である低酸素誘導因子(HIF-1α)に着目して、ウエスタンブロット法により細胞内低酸素状態誘導の差異を、2)低酸素状態の細胞に取り込まれる化合物であるpimonidazole HCIを使用した免疫組織化学的染色・ウエスタンブロット法を行い、細胞内低酸素状態を、3)mtROSを特異的に検出する蛍光プローブMitoTracker Red CM-H_2XRosを使用して、mtROS産生量の差異を検討した。B)C57BL6マウス(WTマウス)および内皮特異的MnSOD過剰発現トランスジェニックマウス(eMnSOD-Tgマウス)を用いたin vitoの系において、高血糖による組織内低酸素状態誘導の可能性およびmtROSによる組織内低酸素状態誘導への影響を検討するためにWTマウスおよびeMnSOD-Tgマウスに、ストレプトゾトシンまたは溶解に使用したbufferを投与し糖尿病群および非糖尿病群を作成し、各群の腎糸球体をHIF-1α抗体およびpimonidazole HC1・VEGF抗体を使用して免疫組織化学的に染色し、組織内低酸素状態誘導の差異を解析した。[結果]低酸素環境下に高血糖条件で培養した血管内皮細胞および糖尿病マウスの腎糸球体・網膜において、HIF-1α蛋白の発現増弾を認めた。また、pimonidazole HC1を使用した免疫組織化学的染色による検討から、高血糖が組織内低酸素状態を誘導することが示された。さらにeMnSOD-Tgマウスを用いた検討から、高血糖による組織内低酸素状態の誘導がmtROSを介して生じている可能性も示された。
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