1.インスリンによる低血糖時に脳内のグリコーゲン量が減少するか検討するために、ラット皮下に6単位/kg体重のヒトインスリンを注射し、皮下投与90分後の大脳皮質及び視床下部のグリコーゲン量を測定したところ、生理食塩水を投与されたコントロールラットのそれぞれ29.1%、75.1%までグリコーゲン量が低下していた。 2.インスリンによる低血糖からの回復後に脳内のグリコーゲン量が代償性に増加するか検討するために、ラット皮下に6単位/kg体重のヒトインスリンを注射し低血糖を誘導した後に、インスリン投与24時間後の大脳皮質と視床下部を摘出し、それぞれのグリコーゲン量を測定した。大脳皮質では生理食塩水を投与されたコントロールラットに比べて1.47倍のグリコーゲン量の増加を認め、視床下部では1.20倍のグリコーゲン増加が認められた。 3.インスリン誘導性の低血糖からの回復後の脳内グリコーゲン量の増加がアデノシンを介しているかどうか検討するために、インスリン投与60分前に12mg/kg体重のアデノシン受容体アンタゴニスト8-phenyltheophylline (8-PT)を皮下注射した後にインスリン注射による低血糖を誘導し、低血糖回復後の脳内グリコーゲン量を測定した。インスリンによって低血糖を起こしたラットのインスリン投与24時間後の大脳皮質と視床下部のグリコーゲン量は、コントロールラットに比べてともに1.32倍増加していたが、8-PT前投与群では低血糖による大脳皮質と視床下部のグリコーゲン量の増加がそれぞれコントロールラットの1.00倍、1.11倍に留まっていた。 以上の結果から、インスリンによる低血糖から回復した後の脳内グリコーゲンの代償的な増加は、アデノシンを介して引き起こされる可能性が示唆された。
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