研究概要 |
インスリン抵抗性を有する肝癌患者は高率に癌が発症し予後不良である。一方、上皮間葉移行(EMT)は、発癌に深く関与する現象であるが、肝癌再発のとの関連は未だ明らかではない。これまでに、我々は、インスリンとインターロイキン(IL)-6を肝癌細胞癌株の培養上清に添加することで、肝癌細胞株のEMTが誘導されることを明らかにした。また、dipeptidyl deptidase-4(DPP-4)阻害剤はインスリンとIL-6による肝癌細胞株のEMTに抑制的に作用するといった研究結果を得ている。そこで、今年度の研究目的は、DPP-4阻害剤の肝癌モデルマウスにおよぼす影響を検討することである。肝癌モデルマウスにDPP-4阻害剤を8週間投与し、非投与群と体重・食餌量・耐糖能異常・肝発がんの状況を比較検討した。体重および食餌摂取量はDPP-4阻害剤投与群と非投与群の間に有意な差は認めなかった(体重CON 23.2g vs. DPP-4 22.5g; N.S., 食餌摂取量 CON 3.2g/day vs. 3.1 g/day; N.S.)。DPP-4阻害剤投与群の空腹時血糖値は、非投与群に比較して有意に低値であったが。EMT関連分子の発現はDPP-4群で減少していたが、肝癌を発症した個体数には両群間に有意差を認めなかった。糖尿病治療薬には肝発がんに関与する薬剤も報告されているが、以上の結果より、DPP-4阻害剤は肝癌モデルマウスの発癌に影響を与えないことが示唆された。また、一連の研究結果より、DPP-4阻害剤は肝癌のmalignant potentialを抑制する可能性も示唆された。
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