エストロゲン受容体α(ERα)は、核内における転写因子としてだけでなく、細胞質においてシグナル伝達分子としても機能していることが明らかとなった。このようなエストロゲンの作用はnongenomic actionと呼ばれる。申請者はtubulinの即時型脱アセチル化を介した新規nongenomic actionを見出した。また、乳癌細胞におけるこの新規nongenomic actionの生物学的意義として細胞の運動能の亢進、造腫瘍能の亢進を示した。本研究では、これらの成果を発展させ、乳癌の転移やホルモン療法耐性との関係を、動物モデルを用いて検討すること、およびtubulinのアセチル化の関与がごく最近になり報告されてきた骨粗鬆症や認知症において、申請者らが解明した新規nongenomic actionの骨粗鬆症や認知症に対するかかわりを検討することを目的としている。 平成23年度には、平成22年度に樹立した乳癌細胞株MDA-MB-231細胞にluciferaseおよび膜移行性のエストロゲン受容体を恒常的に発現させた株をヌードマウスの尾静脈より注射し、細胞膜からのエストロゲンシグナルの転移形成に対する影響を評価した。しかし尾静脈からの注射では、転移巣形成が乏しく、現在、心腔内注射により転移巣の評価を行っている。 また、骨組織に対する新規nongenomic actionの影響を評価するために、マウスの骨芽細胞株MC-3T3-E1をBMP9により刺激することにより骨芽細胞へ分化させる系を確立した。現在は、膜移行性エストロゲン受容体を恒常的に発現したMC-3T3-E1株を樹立中である。
|