ヒトBMP-15の成熟蛋白の6番目のセリン残基が翻訳後修飾として、リン酸化されていること、そのリン酸化がヒトBMP-15の生理的役割にとって重要であることが報告されている。我々はヒトBMP-15にFlagタグを付加したhBMP-15F発現プラスミドをもとにsite-directed mutagenesisの手法により、ヒトBMP-15のリン酸化部位であるmature proteinのN末端から6番目のセリン(Ser6)をアラニンに変換し、非リン酸化モデルの変異型hBMP-15F発現プラスミドを作成した。その後HEK293細胞にhBMP-15F発現プラスミドと変異型hBMP-15F発現プラスミドをそれぞれリポフェクション法により遺伝子導入した上で分泌蛋白の生理活性を野生型と比較検討した。その結果、非リン酸化BMP-15蛋白は野生型BMP-15蛋白のもつ卵巣顆粒膜細胞のFSH受容体発現抑制作用を有さないことが明らかになった。また卵巣顆粒膜細胞におけるプロゲステロン産生に関するステロイド合成酵素の発現を野生型BMP-15が抑制するのに対し、非リン酸化モデルではこの作用がキャンセルされることがあきらかとなった。BMP-15の機能的異常がヒトと同じく単排卵動物であるヒツジにおいて不妊や多産といった独自の生殖表現型を引き起こすことが以前から知られている。また、ヒトにおいても近年、原発性卵巣機能低下症患者や二卵性双生児の母親においてBMP-15遺伝子の点突然変異が高頻度に起こることが報告されている。本研究は卵母細胞から発現・分泌されるBMP-15が卵巣顆粒膜細胞に作用し卵巣機能に重要な影響を及ぼすメカニズムを解明する上で重要な知見と考えられた。
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