本研究の目的は、グレリン遺伝子欠損マウスの血圧・心拍や体温に見られるリズム異常の原因を解明し、「グレリン」が自律神経機能のリズムをどのように制御しているのかを分子レベルで明らかにすることである。これまで作用機序の一端を明らかにし、グレリンが視交叉上核に存在する時計遺伝子の本体に影響することなく自律神経機能のリズムを制御している可能性を示した。本年度は、主として体温を指標とし、グレリンによる自律神経機能のリズム制御について検討した。 まず、中枢におけるグレリンの作用機序を解析するために、弓状核の破壊実験を行った。具体的には、新生児マウスの生後2-5日にかけてグルタミン酸ナトリウムを皮下投与したが、高濃度(15mg/g)の投与ではマウスが生存出来なかった。一方、生存可能な濃度(5mg/g)では充分な破壊効果が得られなかったことから、今後も引き続き検討していく必要がある。次に、褐色脂肪細胞に対するグレリンの直接作用を初代培養細胞を用いて検討した。交感神経末端から分泌されるノルアドレナリンなどを添加して産熱の指標となる脱共役タンパク質(ucp1)の変化を検討したところ、グレリンを添加することによってucp-1など産熱経路に関わる遺伝子発現量が減少あるいは減少傾向を示した。しかしながら、褐色脂肪細胞でのグレリン受容体量はわずかであり、直接作用の寄与は小さいものと考えられた。したがって、グレリンによる体温のリズム調節を介した体温調節系は、前年度明らかにした、中枢を介する経路が主要な経路であることが示された。 研究成果は、肥満症や糖尿病のようなグレリン低値を示す病態で、様々な自律神経機能の異常が生じやすくなる病態生理学的意義を呈示できるとともに、投薬法や治療法の一助となることが期待できる。
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